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酒と音楽が好きなゲイのブログ

この街に色をつけてよ

ゲロ臭い街を歩く。

出発の日の天気は曇りだった。6月になって、おれは数十年過ごした街を離れることになった。それはとても不思議な気分だった。おれの過ごした数十年という月日はとても薄くてペラペラだと思っていたけど違かった。

 

中学生の時に通った塾。高校生の時、学校帰りに寄り道したマック、ミスド。大学に入り、通ったバイト先。スタバ、駅のホーム、百貨店、缶チューハイを買うためだけに存在したスーパーマーケット。そのすべてにおいて、なんとも形容しがたい気持ちが溢れてくる。感情はとめどなく溢れてはこぼれ、乾いていった。おれのイメージの感情というものはサイダーに似ている。パチパチしていて、何度も何度も気泡ができては潰れて消えていく。無常だ。

薄くてぺらぺらしたものだとばかり思っていた街の景色が本当はとても色濃いものだったのだ。

 

大阪に発つ日の朝、両親に車で駅まで送ってもらった。車内ではレディオヘッドが流れていた。駅について、車から降りて、しばしの別れを告げた。駅に向かう途中、何度も振り返り、手を振った。何度振り返ったかわからないほど振り返った。寂しくて、悲しくて、目を開けていられなかった。

そうして、おれは知らない土地で暮らすことになる。

大阪という街に魅力を感じることができるだろうか。自分が長く住み続けた街と同じように、愛おしく思えることができるだろうか、とても不安だった。

そんな思いを誰かが汲んでくれることなく、早くも一か月が過ぎてしまった。たかだが一か月では街を愛することはできなかった。どこになにがあるのか、手さぐりの毎日が続いていた。

ただ、会社と家とを往復する毎日の中で、楽しいことは家で自炊をすることくらいで。選択できるほど何かがあるわけではないことを実感する。スタバとツタヤとビレバンがあればどこでも暮らしていけると思っていたから、それらを必死に探す。探しては自分らしさを取り戻す運動をしていた。だって、誰も知り合いも友達もいない街では、自分を見失いがちでしょ。そうじゃないの?

あそこに郵便局がある、そこに耳鼻科がある、あそこのスーパーの野菜は少し高い、そんなことをしては休みが終って、起きたら会社に行く日がずっと続いている。このままこういう日々が延々と続くのかと思うと、果てしなくて気持ちが悪い。そう思いながらも毎日満員電車に揺られている。家から会社まで、20分くらいと非常に立地のいい場所で暮らしている。通勤という面においては。そのせいか、イヤホンで音楽を聴くことが少なくなった。音楽を持ち出すことが少なくなり、さらにはギターを弾くことも少なくなった。アイデンティティというものが形を成して存在していたら、彫刻刀でガリガリと削られていると思う。切ない。

働くことに毒されて、自分が消えていく様を遠いところからもう一人の本来の自分が見ているような気がした。

社会が悪い。と言うのは言いすぎかもしれない。なぜなら環境は自分で手に入れることができるから。嫌ならやめてしまえばいいとも思う。けれども今すぐとはいかないのが現実で、その、社会という脅威はおれから好きなものと自由を奪い、働くために必要な忍耐と少しばかりのお金をくれた。現実や社会というものを毎日、これでもかと見せられる日々の中、酒を飲みすぎて太ってしまった。これもまただらしがなく、情けのない話の一つである。だって、寂しさを埋めてくれるのは酒とゲームくらい。ゲームはいい、やっている一瞬だけは何も考えずに済むから。

 

こうして去りゆく日々の中で何か充実することを見つけられることはできるのだろうか。それは恋くらいな気がする。誰か、この街に色をつけてよ。